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年収の壁とは?年収の壁・支援強化パッケージも併せて解説

厚生労働省が2023年8月18日に発表した地域別最低賃金は、前年度から43円の引き上げとなり全国の加重平均が1,004円と過去最高を記録しました。近年の物価高なども影響し、物価と賃金が上昇するインフレーションの時代に突入しています。

しかし、最低賃金が上昇したことで、扶養内で働くパートタイムやアルバイトなどの短時間労働者が「年収の壁」を意識して就業時間を縮小するなど、労働不足への懸念が不安視されています。

ですが、年収の壁と言われる収入の基準に対し、どの段階で壁が発生するのか、また収入の障害となっている制度について詳しく理解できていないという方も多いでしょう。

そこでこの記事では、「収入の壁」について各ステップで発生する税金や社会保険制度について詳しく解説します。

また、2023年10月に厚生労働省が開始した「年収の壁・支援強化パッケージ」についてもあわせて解説するので、ぜひ参考にしてください。

目次

年収の壁とは?社会保険料や税金の発生ステップをわかりやすく解説

年収の壁とは、一定額の年収を超えた際に発生する税金や社会保険料の支払いにより、手取り額が目減りするボーダーラインのことです。

配偶者の扶養の範囲内で働けば、自身が健康保険に加入していなくても、医療を受けた時に配偶者の健康保険を使えます。また、公的年金も配偶者が加入している厚生年金や掛け金の一部を基礎年金として負担しているため、支払う必要がないのです。

ですが、労働時間の延長や賃金の上昇により、基準となる年収をオーバーしてしまうと税金や社会保険料の支払い義務が発生します。手取り額が減ることを避けるため、基準値を超えないよう労働時間を調整するパートタイム労働者も少なくないでしょう。

そこでこの章では、「壁」となっている制度について5つのステップで解説します。

103万円の壁【所得税の支払い】

まず第一の壁として、103万円を超えると所得税の支払い義務が発生します。

税金の計算には所得の種類や収入額によって、さまざまな所得控除があります。給与所得であれば162万5千円まで55万円の控除が適用され、さらに年収が2400万円以下であれば基礎控除として48万円が所得から差し引かれます。

そのため、55万円+48万円=103万円までは所得が無いとみなされ税金は加算されませんが、超過した分に対しては所得税が課されるのです。

例えば、年収が108万円だった場合、給与控除と基礎控除を差し引いた5万円に所得税が掛かります。所得税を5%とすると、2千5百円の税金が掛かる計算になります。

106万円の壁【厚生年金・健康保険の支払い】

年収が106万を超えると、働いている企業の規模によっては社会保険に加入しなければなりません。

厚生労働省が定める社会保険の加入条件は以下の通りです。

社会保険の加入条件
  • 勤め先の従業員が101人以上(※2024年10月からは51人以上に範囲が拡大されます。)
  • 週の所定労働時間が20時間以上
  • 所定内賃金が8.8万円以上(※毎月支払われる基本的な賃金で、交通費や賞与・残業代は含まれません。)
  • 2ヶ月を超える雇用の見込みがある
  • 学生ではない

社会保険加入の基準は月額で8.8万円となっており、この基準を超えないよう労働時間を調整している方も多いのではないでしょうか。

健康保険に加入すると、ケガや病気で働けなくなった時の傷病手当金や、育児休暇中に出産手当金が貰えるなどのメリットがあります。

その一方で、協会けんぽに加入した想定で社会保険料を算出すると、仮に107万円の収入があった場合に15万円の社会保険料の支払いを考慮すると「手取り額」が92万円となり、年収が目減りしてしまうのです。

参考:協会けんぽ【令和5年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表】

130万円の壁【国民年金・国民健康保険の支払い】

130万は扶養に入るためのボーダーラインとなっており、130万円を超えると全ての配偶者が扶養から外れ、社会保険に加入しなければなりません。

106万円で社会保険の加入条件を満たさない方は、130万円を超えるとご自身で国民健康保険と国民年金に加入し、保険料を支払うことになります。

年収を130万円に抑える目安としては月々10.83万円ですが、扶養から外れる条件は健康保険組合によって違いがあります。

仮に繁忙期で1ヶ月だけなら基準を超えても扶養に入れるなど、保険組合によって条件が異なるのでご自身の勤め先に確認しておきましょう。

東京都大田区の35歳、年収130万円で社会保険料をシュミレーションしてみると、以下のような結果となります。

東京都大田区在住 35歳 年収130万円の場合

国民年金保険料の金額は、1カ月あたり16,520円 年間で198,240円(令和5年度)。

国民健康保険料は年間で143,533円となり、月額にすると11,961円となります。

国民年金保険料と国民健康保険料を合算すると、198,240円+143,533円=341,773円

結果的に年間で341,773円の支払いが増えるため、その分手取り収入が減ってしまう計算になります。

参考:大田区ホームページ【保険料の試算(シュミレーション)】

150万円の壁【配偶者控除の減額】

150万円の壁とは、配偶者の税額控除が満額受けられなくなるラインのことを言います。配偶者特別控除が満額であれば、所得税が38万円、住民税が33万円の税額控除されます。

しかし、150万円を超えると段階的に配偶者特別控除額が下がり、配偶者に課せられる税金が増えてしまいます。

配偶者特別控除の内容は以下の表を参照ください。

出典:No.2672 年末調整で配偶者控除又は配偶者特別控除の適用を受けるとき|国税庁

150万円を超えたからと言って一気に配偶者控除がなくなる訳ではありませんが、年収が増えると配偶者の税金が徐々に増えてしまうため、抵抗がある方も多いでしょう。

201万円の壁【配偶者控除の消滅】

201万円を超えると、配偶者特別控除が完全に消滅するラインです。配偶者の税金控除額が減り、徴収される税金が増えてしまいます。

しかしながら、ご自身の収入が増えた分はご家庭の世帯収入としては増加しているため、収入が減っている訳ではありません。

以上のように年収の壁によっては必ずしも収入が減ってしまう訳ではないので、それぞれの壁を理解して働くことが求められます。

政府が実施する「年収の壁・支援強化パッケージ」はどんな制度?

政府が2023年10月から開始した「年収の壁・支援強化パッケージ」とは、パートやアルバイトで働く方が、年収の壁を意識せずに働ける環境づくりを支援する制度です。

今回実施された制度は、社会保険料の加入義務が発生する106万と130万の壁が対象となっています。その他103万・150万・201万は課税の発生や控除額の減少であり、必ずしも手取り収入が減る訳ではありません。

一方で106万・130万の壁は社会保険料の支払いにより手取り収入が減少するため、扶養内で働いている多くの方が「働き控え」を意識しているラインとなっているでしょう。

年収の壁・支援強化パッケージの内容は、キャリアアップ助成金として「手当等支給メニュー」「労働時間延長メニュー」などがあります。また繁忙期や人手不足などを理由とした一時的な年収の増加であれば、一定額をこえても扶養内で働ける政策を織り込みました。

制度の内容について以下で詳しく解説します。

106万の壁対策 ~キャリアアップ助成金【社会保険適用時処遇改善コース】~

政府は106万の壁対策として、年収が一定額を超えた場合に社会保険料相当の「賃金の支給・又は賃上げ」を行った企業に対して、国が最大50万円の助成金が支払われます。

【1】手当等支給メニュー

【2】労働時間延長メニュー

【3】併用メニュー

【1】【2】【3】出典:厚生労働省【キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)】

助成金が支払われる方法として【1】手当等支給メニュー【2】労働時間延長メニュー、さらに【1】と【2】を併用した【3】併用メニューがあり、それぞれ条件や基準が課されています。

それぞれ詳しく解説します。

【1】手当等支給メニュー

手当等支給メニューの条件としては、1年目で賃金の15%を労働者に追加支給することで、企業が一人当たり20万円の助成金を国から受け取ることができます。2年目も同様の条件であり、3年目のみ賃金の18%以上が増額の条件として10万円が助成されます。

社会保険適用促進手当として支給された賃金は、保険料を算定する際の標準報酬月額や標準賞与額の算定に考慮しません。しかしながら、支給された手当のすべてが控除されるわけではなく、あくまでも標準報酬月額が 10.4 万円以下の者が対象となるので注意が必要です。

また、標準報酬算定の除外は保険料を計算する際の対象となりますが、所得税や住民税・労働保険の算定については対象外となっています。そのため、税金については壁を超えた収入分は税金の算定対象となることを念頭に置いておきましょう。

【2】労働時間延長メニュー

所定労働時間を延長することにより、社会保険を適用させる場合に事業者に対して助成金が支払われる制度です。延長時間によって賃金の増額率が決まっており、6ヶ月間継続した後に助成金が支払われます。

例えば、時給1,000円で週に20時間働いていた場合、週の労働時間を3時間伸ばした時の賃金の増加率は5%UPです。

時給を1,050円に増額することで社会保険料相当の収入が得られるため、国が助成金を支払う条件に適合します。

130万の壁対策 ~事業主の証明による被扶養者認定の円滑化~

政府は130万の壁対策として、繁忙期や人手不足などの理由で一時的に収入が増加しても引き続き扶養に入れる仕組みを作りました。一時的な収入変動である旨を事業主が証明すれば、連続で2回を上限として配偶者の扶養に入れる可能性があります。

ですが、「一時的な収入変動」として認められる条件があり、該当しない場合は扶養を外れてしまう可能性があるので注意が必要です。

「一時的な収入変動」になる条件としては、当該事業所の他の従業員が休職・退職したことによる業務量の増加や、受注が好調だったことにより当該事業所全体の業務 量が増加したケースなどがあげられます。

「一時的な収入変動」に該当しない条件は、基本給が上がった場合や恒常的な手当が新設された場合など、今後も引き続き収入が増える場合は一時的な収入増加とは認められません。

また、あくまでも事業主の人手不足を補うための対策であり、特定の事業主と雇用関係にないフリーランスや自営業は対象外となります。

年収の壁・支援強化パッケージが生まれた背景とは

年収の壁・支援強化パッケージが生まれた背景には、政府が掲げる「こども未来戦略方針」があります。

日本では2022年の出生数が80万人を切るなど、子どもの数がピークだった1949年の270万人と比較して3分の1まで減少しています。さらに少子化が加速しており、人口減少に歯止めをかけなければ経済的にも衰退し、国力が低下してしまうでしょう。

これからの若い世代が、安心して子どもを産み育てられる環境を整備するため、3つの基本概念のひとつに「若い世帯の所得を増やす」ことが掲げられています。

ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化や若い世代の所得向上に向けた取組の一環として、年収を気にせず働ける環境作りとして「年収の壁・支援強化パッケージ」が盛り込まれました。

政府は「こども未来戦略方針」を策定した令和5年6月時点では、令和6年度の導入を目指していました。ですが、同年の8月に全国平均の地域別最低賃金が1000円を超え、過去最高を記録したことをきっかけに前倒しで政策を実施することとなりました。

扶養を外れて社会保険料を支払うメリット

年収の壁を超えることで社会保険料の加入義務が生じた場合、手取り収入は減ってしまいますが社会保障が手厚くなるといったメリットもあります。

扶養に入っている場合では、ケガや病気が原因で休職した際の保障として支払われる「傷病手当金」や、育児休暇を取得した時の保障である「出産育児手当金」は対象外です。

一方で、配偶者の扶養を外れてご自身で社会保険に加入すると、病気やケガのために会社を連続で3日以上休み、給料が支払われない場合は標準報酬日額の3分の2相当額が1年6ヵ月を限度として「傷病手当金」が支給されます。

また、社会保険に加入し厚生年金を支払えば、将来貰える年金額が増加するなどのメリットがあります。併せて「年収の壁・支援強化パッケージ」を実施すれば、手取り額を減らすことなく将来のリスクに備えられるのです。

年収の壁・支援強化パッケージの注意点

今回政府が打ち出した年収の壁に対する政策ですが、必ずしも企業が「年収の壁・支援強化パッケージ」を実施している訳ではありません。

年収の壁への対策は各企業が労働者との話し合いの中で決めて行くといったスタンスであり、政策によって強制されるものではないため、企業側が対策を行っていない可能性も十分にあり得ます。

「年収の壁・支援強化パッケージ」があるからと労働時間を増やして年収が壁を超えた時に、企業が政策を実施していなければ手取り額が減ってしまうリスクがあるのです。

もし仮に「年収の壁・支援強化パッケージ」での対策を検討しているのであれば、事前に勤め先の企業と話し合いを行ったうえで計画的に実行することが必要でしょう。

年収の壁・支援強化パッケージはいつまで?

現時点での年収の壁・支援強化パッケージの期間は、令和7年(2025年)度末までの時限措置とされています。

理由としては、令和7年(2025年)に予定されている次期年金制度改正に向けて改正をおこないつつ、当面の措置としてひとまず導入される制度であり、さらに制度の見直しに取り組むとされています。

時限措置の延長は予定していないとされており、年収の壁については今後の見直しや制度改正をウォッチする必要があるでしょう。

まとめ

こども未来戦略方針の一つとして実施された「年収の壁・支援強化パッケージ」は労働力確保や若い世代の所得増加などを目的として実施されています。

メディアやSNSなどでも話題となった政策ですが、内容を理解できずに本制度を活用できていない方も少なくありません。メリットがある政策であるため、企業側も積極的な支援の実施と理解への「呼びかけ」が大切です。

また、今後も物価や賃金が高騰する「インフレーション」が続くとの見方が多いなか、時限措置とされている今回の政策がどのように見直しが行われるのか、今後も動向を把握する必要がありそうです。

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